齊藤 想の【サイトーマガジン】2024.04

歴史小説の楽しみ(塩野七生)、山本文緒『百年の恋』の模倣、要素を3つ並べる、連作形式の方向性、成長を表す小道具の使い方
齊藤 想 2024.04.05
誰でも

齊藤 想の【サイトーマガジン】2024.04

【第198回のメュー】

◆歴史小説の楽しみ(塩野七生の巻)

◆小説でもどうぞ!に挑戦中(第29回)※最優秀賞受賞!

◆プラスのショートショート1~3 ※佳作受賞作

◆公募情報数点

【◆歴史小説の楽しみ(塩野七生の巻)】

塩野七生はイタリアを中心としたヨーロッパの歴史を書き続けています。

ミステリ色のある歴史小説もありますが、なにより塩野七生といえば膨大な専門書を読破した上でまとめあげた歴史エッセイシリーズです。時代別に並べるとこうなります。

・『ギリシャ人の物語』

・『ローマ人の物語』

・『ローマ亡き後の地中海世界』

・『海の都の物語/ヴェネツィア共和国の一千年』

・『十字軍物語』

なかでも最も有名かつ代表作と見なされているのが『ローマ人の物語』です。都市国家ローマの誕生から西ローマ帝国の滅亡までを描きますが、ローマ帝国が発展した理由、そして衰退して滅亡した理由を解き明かそうとした意欲作です。

細かい部分について専門家からの批判もあるようですが、そもそも、そうした批判を受けること自体が、この本のレベルの高さを物語っています。

「ローマは敵を同化することで成長してきた」というのが塩野七生の視点です。その視点で見ると、歴代ローマ皇帝が様々な地方・民族の出身者であったこともうなずけます。

歴史小説とは少し趣が違うかもしれませんが、『ローマ人の物語』はローマに限らず人類の歴史を考える上でも、非常に有益かと思います。

『ローマ人の物語』は文庫本で43冊の大長編ですが、歴史好きならぜひとも挑戦してみてください!

【◆リアルタイム企画 小説でもどうぞ!に挑戦中(29回)】

今月のテーマは「癖」でした。ありがたいことに、最優秀賞をいただきました。

『持つべきものは』 ※作品はクリック

この作品は山本文緒の短編、『百年の恋』の構造を借用しています(『ブラックティー』に収録)。

ざっくりと構造を説明すると「立場が上の人物が、立場が下の人物に説教を垂れるが、実は二人とも同じ立場であることが判明し、最後はまるく収まる」という形式です。

自分は印象に残った作品のマネをよくします。自分が良いと感じた作品のエッセンスを吸収したいからです。

作品を分析するのも必要ですが、どちらかというと自分は実作を重視しています。

手を動かすことで、言語化が難しいノウハウや、コツを蓄えることができるからです。

とにかく試すこと。実力向上はこれにつきると思います。

【◆プラスのショートショートその1】

第29回小説でもどうぞ!に応募した作品その2です。

『影武者』 ※作品はクリック

本作は秘密警察に総統の影武者となるように命令されたモノマネ芸人が、仕方なく総統の癖を模倣した話です。何も知らずに模倣をした癖には重大な秘密があって……というのが作品のキモです。

伏線となるのは、もちろん秘密の癖です。その癖を早い段階で、かつ自然な流れで読者に提示する必要があります。そこで自分は以下のような文章としました。

>三日間の猛練習の結果、私は声や仕草だけでなく、小指と親指で口ひげを挟むという総統の細かいクセまでコピーすることに成功した。

伏線を単独で書くのではなく、他の要素と組み合わせることで、自然な流れで印象付けるように工夫しています。要素を3つ並べるのは(今回だと「声」「仕草」「癖」)、リズム良く自然に見せる工夫です。

細かい技術ですが、何かの参考になればと思いまして。

【プラスのショートショートその2】

第20回坊ちゃん文学賞に応募した作品その1です。

『休暇鳥』 ※作品はクリック!

これは坊ちゃん文学賞でよく採用されている「ダジャレネタ」で書いた作品です。

休暇鳥ですが、これは「きゅうかんちょう」と読み、もちろん九官鳥のダジャレです。

今回はめずらしく連作形式にしています。3つの小さな話を繋げています。

連作形式の場合ですが、自分は風呂敷を広げるように意識しています。本作だと1番目と2番目は身近な話ですが、3番目で戦争にまで舞台を広げています。

連作形式の場合、身近な話から始めた場合は積極的に広げる、といった方向性を意識すると良いと思います。

ショートショートで連作形式は珍しいとは思いますが、少しの参考になればと思いまして。

【プラスのショートショートその3】

第7回小説でもどうぞ!W選考員版で佳作になった作品です。

テーマは「神さま」です。

『声神様』 ※作品はクリック!

本作は時代劇です。冒頭で時代を説明する必要がありますが「時は江戸」とか書くのはなんとなくダサいので「神様をかたどっただけの石の塊や木の切れ端を拝み、願いをかけ、あげくの果てに乏しい懐から金銭まで供えている」という文章で、間接的に時代劇であること、末端の市民まで金銭が流通しているので江戸時代であることを示してみました。

構造としては、成長をテーマにしています。成長物語は鉄板です。

最初に登場する村人は、神様に金銭をお供えしてお願いをする、つまり懇願するだけであり、ある意味では取引です。それが、後半の村人は、自分たちの成果を神様に分けてあげる、つまり同等の立場にいます。

お供え物の違いが、成長を表現する小道具です。

成長物語は人物だけでありません。組織としての成長物語もありえます。

組織としての成長物語の利点は、主人公の自由度が広いことだと思います。

成長にもいろいろなパターンがあるということで。

【◆公募情報】

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